仮想の近代―西洋的理性とポストモダン

東京大学出版会 / 1992-10刊 / ¥3,456
購入: 2014-11-14  /¥200
讀了: 2009-00-00 人文・思想

[投稿日] 2009-10-29

 ドイツ法學の權威が定年近くになって現代思想へ踏み出した志向を示す論集。基本的に泰西諸説を綴り合せて調停しながら論を成し、自家獨立の識見は窺ひ難い。よく勉強してあって秀才らしく整理されてゐるものの輸入學問といふか飜譯的知性といふか。語學力無き菲才の身には要約紹介として役立つ。
 「IV 歴史と偶然」は問題提起に留まって結論に及べなかったやうだが、材料は面白い。「歴史概念の変遷」に就きラインハルト・コゼレック『歴史基本概念事典』「歴史」の項目を紹介した上で、カントの歴史哲學にとって偶然性が問題となる所以をマンフレート・ゾンマーの解釋に從って考察したもの。
 書き下ろし新稿「VI ヨーロッパの近代とポストモダン」も、人文主義的文化を論じて興味そそる。そこで使はれたスティーヴン・トゥールミン著はその後『近代とは何か その隠されたアジェンダ』と題して出た譯書で讀めるが、それ以上に著者に評價され、近代の辯神論について引證されるオード・マルクヴァルト『偶然性の弁護』が譯刊されぬものか……。せめても邦譯のある「人文科学の不可避性について」(中尾健二譯、『静岡大学教養部研究報告 人文・社会科学篇』29-1、1993.9#)をウェブで讀む。
# http://dx.doi.org/10.14945/00005159
 本書全體を通し、ポストモダニズムに引き寄せて再評價されるロマン主義思想等は、掬すべきものありにせよ、今となってはドイツ特殊事情に偏した時論めいてしまって共感を興すまい。それよりも、合理主義や統一性に對する「偶然」「偶発性」をキイワードとして讀み直す方が面白い(卷末「索引」に立項あり)。――例へば、「II 近代化と合理主義・反合理主義」で引證されるロルフ・グリミンガーの論にクリスティアン・トマージウスが取り上げられてゐたが、法律家でもあったトマジウスが蓋然性論でも知られたことは偶然性に注意する觀點からは見逃せない筈。で、手代木陽『ドイツ啓蒙主義哲学研究――「蓋然性」概念を中心として』(二〇一三年)を讀むと……?

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