父京助を語る 補訂

教育出版 / 1986-05刊 / ¥1,404
購入: 2011-03-26  /¥200
讀了: 2011-04-03 文学・評論

[投稿日] 2011-03-26

 身贔屓にならず學者としての難點を批評してある部分もあるのが、讀みどころ。
 「このころ[敗戰後]はとっくに進歩はとまっていた。一体父の書いたもので、学界の先端を行っていたものはいつごろまでのものかというと、昭和六年の『ユーカラの研究』、昭和十三年の『新訂国語音韻論』あたりまでで」……(p.149)。生前にあった知里眞志保や小林英夫からの批判も見るべきだらう。
 「思うに父の頭の中には、[……]絶対に疑ってはならない神聖な信条が幾つかあったようである。[……]/それらは、強い感情の裏付けをもっていたので、言葉に表すときには、激しい語調を伴った。感情が裏付けになっているだけに、冷静にすきをつかれて反論されると、たわいなかった。[……]福田恆存氏とやりあって衆目を集めた仮名遣い論争の時など、その例である」(p.29)。「父は、日ごろ自分の好きなものはイコールよいもので、自分の希望することはイコール正しいことだという哲学をもっていた。[……]/学問の上でもこの行き方が現れることがあって、敬語は美しい、と考えることから、敬語のあることは日本語の長所であると判断する類である。こういうことは文学研究には、かならずしも邪魔にならないとしても、言語学の研究には大分有害だったと思われる。父が言語学者として、とにかく一流の人になれたというのには、友人に、橋本進吉博士のような、純粋に客観的に物を見ることができる、理性的な学者がいて、その風に親炙したおかげだと思う」(p.69)。

中村幸彦著述集 第13巻 近世世語

中央公論社 / 1984-07刊 / ¥7,025
購入: 2010-12-20  /¥2000
讀了: 2010-12-21 文学・評論

[投稿日] 2010-12-20

 「世語」と題する通り言葉の考證だが、食生活に關する語彙が多いので實は食物蘊蓄隨筆としても愉しめる。しかし文學史論にとって一番要り用なのは隨筆その他を論じた「圏外文学」の部だ。

目次
http://d.hatena.ne.jp/okjm/20060331/p1
http://snob.s1.xrea.com/t/20060820.html

文体序説 (1967年)

新読書社 / 1967刊 / ¥864
購入: 2010-09-26  /¥500
讀了: 2010-10-01 古書

[投稿日] 2010-09-26

 愚著。前半の方法論は、文學志向による「スタイル」概念への過大負荷、理論の體を成さない。後半はただの詩論。これだから詩の好きな奴って……『修辞学の史的研究』はマシだった筈だが。こんなものが研究史上特筆される(吉武好雄「日本における文章論の発達」)のは文體論研究の程度の低さを示すものだらう。増訂版(一九七一年)を探す必要もあるまい。「まえがき」に後の『筆蹟の美学』(→改題『筆跡の文化史』)に至る問題意識を見られ、「あとがき」から服部嘉香との交流が窺へたくらゐが精々收穫か。舊藏者名「伊藤富士麿」と印あれど他に書き込み等無し。

振仮名の歴史 (集英社新書)

集英社 / 2009-07-17刊 / - /
購入: 2010-09-12  /¥322
讀了: 2010-09-21 言語学

[投稿日] 2010-09-12

 著者のマニアックな良さが新書判だと出せなかったやうで、ガッカリ。この程度が當今の新書に求められる「わかりやすさ」なのかも。
 チト驚いた豆知識をメモ。「『夜想』などの雑誌を出版していたペヨトル工房(一九七九?二〇〇〇)を主宰していた今野裕一は筆者の実兄であるが、筆者も「北野真弓」などという名前を使って『夜想』の編集の手伝いめいたことを少しの間していた」(p.147)。それだから『消された漱石』はあんな凝った版面設計だったのか?